貫井徳郎の直木賞候補作を、ポーランドで映画を学んだ石川慶監督が長編デビュー作として映画化した『愚行録』(2017年)は、観る者の倫理観を凍りつかせる、冷徹でスタイリッシュなミステリーです。迷宮入りした凄惨な一家殺人事件を、週刊誌記者の田中が取材を始めますが、語られるのは人間の醜い本性ばかりでした。
本作の恐ろしさは、犯人の異常性ではなく、私たちが日常的に行っているかもしれない「他者を見下す」「保身のために嘘をつく」といった些細な「愚行」の積み重ねが、決定的な悲劇へと繋がっていく構成にあります。大学の社交サークル内での序列や、格差社会の歪みを生々しく描き出しています。
妻夫木聡と満島ひかりという実力派俳優の、静かだが底知れぬ狂気を秘めた演技が圧巻。日本映画に新風を吹き込んだ石川慶監督の、類まれな演出センスが光るダーク・ミステリーの傑作です。