日本映画を代表する巨匠・小津安二郎監督と、名女優・原節子が初めてコンビを組んだ『晩春』(1949年)は、その後の小津映画のスタイル(小津調)を決定づけた極めて重要な作品です。妻を亡くした大学教授の父と、彼を一人にさせることを心配して結婚を拒む娘の紀子。互いを深く思いやるがゆえの葛藤と、やがて訪れる静かな別れを描きます。

小津監督の代名詞である「ローポジション(低いカメラ位置)」や、人物がカメラに向かって直接セリフを言う独特の「正面切り」の構図が、この作品で完成の域に達しました。紀子が結婚を決意し、父と最後の旅行に出かけた京都での場面は、言葉を超えた深い情愛に満ちています。

すべてを終えた父親が一人、暗い部屋でリンゴの皮を剥くラストシーンの得も言われぬ余韻は、人間の持つ孤独と人生の哀歓を完璧に表現しています。